私のシネマワールド

映画の事を中心に、気の向くままに書いております。

空白を観ました。

                   空白

 

女子中学生が万引き容疑で、スーパーの店長に事務所に連れて行かれるが、すぐに逃げ出し、その後を店長が追いかける。
少女が国道に出た途端、乗用車と衝突、その後立ち上がり見てるこちらもホッとしたのも束の間、背後から来たトラックにひかれ、引きずられ死亡してしまう。
父親は娘の死も万引きしたことも信じられず、その怒りの矛先は、娘を執拗に追ってきた店長、そして彼女を撥ねた車に乗っていた女性、そして学校へと向かう。

スーパー周辺で父親から嫌がらせを受ける店長も、父親に謝ろうとするのを拒まれた乗用車の女性も、だんだんと精神的に追い詰められていく。はたしてこの事件の真相は? 父親の怒りはおさまる日は来るのでしょうか?

と、まあざっくりと内容を書きましたが、本当に救いようがないようなお話でした。
この父親添田充は離婚してるんですね。別れた妻翔子は再婚していて、新しい命がお腹に芽生えています。幸いにも娘の花音とは時々会ってるようですが、なぜ充に娘を託したのでしょう? 普通は母親なら子供は手離なさないで連れて出ると思ったのですが、どうやら昔母親は心の病を患っていたようで、もしかすると子供の世話のできる状態ではなかったのかもしれません。

 

父親は不器用で自分本位、娘が母親に買ってもらったスマホを持っているのを知ると、まだ早いと言い、外に投げてしまいます。いくら何でもそんなのありですか~?

スマホがあれば娘は母親と繋がってると思えるだろうし、父親に話せないことも相談できたでしょうに。。。せめて一時的に預かっとくぐらい言えないのかと、イラっとしました。そしてなぜか、どんなシーンでも口ごもるようなはっきり自分の考えを言えない娘花音にまで、少しイラっとしてしまいました。

こんな感じで、誰に対しても言葉が荒く、穏やかに人の話に耳を傾けたり、会話するとゆうことが苦手な充。そんな父親の前で娘も萎縮して生活してる事が冒頭のシーンだけでわかりました。彼女が万引きしたのも、そのストレス?などと勝手に想像してしまいました。
一番悩みの多い年頃、学校でも孤立してる感じで親しい友達もいなそうだし、家でもあの父親と一緒。。。誰にも心を開けなかった彼女を思うと不憫でなりません

スーパーの店長青柳は、万引きした花音を追って行っただけで、たまたま不幸にも事故が起きてしまいましたが、何も悪い事はしていないとも思えます。
反面、きちんと防犯カメラを付けて防犯カメラ作動中と書いておくなりすれば、犯罪は起きにくかったと思います。盗む人間が一番悪いですが、そうゆう環境作りや対策をお店側がしてくれてたらな~と思いました。

     

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このシーンが微妙。コスメを手にしただけで、事務所に連れて行かれるんですが、ドラッグストアとかだと、化粧品とかけっこう説明文とか、商品の売りを見てから買いませんか?小さい字なんで手にして読んだりしませんか? みんな買い物籠を持ってるから怪しまれないのかしら? 花音はカバンだけだから、変に思われたのかもしれませんが、どうせならカバンに入れるまでを見てから、行くべきだった気もします。現行犯逮捕って事ですものね。やっぱり防犯カメラ必要ですね。制服姿でしたから、どの学校かもわかるし、あそこまで追いかけなくてもな~とゆう気もちょっとしました。
事務所内でのいきさつも、はっきりさせてないので、そのあたり観た側の判断に委ねるとゆう事なのでしょうか?

自分が店長なら過去にそんな事がない限り、一度は許すかもしれません。二度としないとゆう約束で。。。 ま、こちらは少女の家庭の事を知ってるから言える事ですけど。。。あの父親に連絡されると思うと恐怖で逃げたくもなりますから~

スーパーの店長青柳はこの事件後、充の嫌がらせやマスコミの勝手に編集された報道などに追い詰められて行きます。

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そしてついに自ら命を絶とうとしますが、危機一髪でお店の従業員の麻子に助けられます。彼女は少々おっかいで空気の読めない部分もありますが、誰よりもマスコミや風評被害からお店を守ろうと頑張ってくれます。、それだけでなく年下の店長への想いも伝わってきます。時にそれがありがた迷惑な時もあるのですが、こんな人がいたら頼もしいだろうな~とも思える人。こうゆう役、寺島しのぶさんはお上手。美しいヒロインの役もやれば、こうゆうお節介なおばちゃんの役まで。。。色々な役柄をこなせるのが強みですね。

一方、乗用車に乗っていた女性ですが、自分の謝罪を何度も充に無視され、ついには自殺をしてしまいます。

さすがに少しは悪いと思ったのか、充は通夜の席に足を運びましたが、女性の母親に何か言われるのではないかと、いつになく身構えている様子。それでも強気で「俺は絶対に謝らないそ」と言います。

ところが女性の母親の口から出た言葉は、とても立派な言葉でした。
娘の罪は自分が背負って行くので、こうゆう道を選んで逃げてしまった弱い娘を許してくださいと涙ながらに謝ったのです。これには充も言葉が返せませんでした。

たぶん、この事が充の暴走を止めるきっかけになったのではないかと思います。
同じ娘を失った親として、この違いは何なのかと思ったのではないでしょうか?
さんざん人を責めて、謝罪の言葉さえ無視した結果、人を自殺にまで追いやった自分。

それをわかっているからこそ、悲しみの中にあっても逆に謝罪をする母親の言葉が胸に突き刺さったのではないかと思いました。


その後、少しずつですが充は変わってゆきます。遺品を整理してた時、部屋で花音の描いた絵を見つけると、娘を知ろうと自分も絵を描きます。

そんな中、こんな事もありました。娘の部屋のぬいぐるみの背中のポケットから、たくさんのコスメが出てきたのです。
充はそれを袋に入れて捨ててしまいますが、万引きとゆう一番否定したかった事が、もしかして?と思えてくるのでした。

別れた妻の翔子のお腹はどんどん大きくなりました。 お墓参りの帰り、翔子と共に漁船で働く弟子の野木との食事中、充は生まれてくる子供の名前や翔子の夫にもケチをつけ始めました。 彼女は怒って先に帰ろうとしますが、その時充が「待ってくれ」と言います。そして涙ながらに「すまなかった。羨ましかったんだよ」と言い、その子を大事に育ててくれと頭を下げました。そんな元夫の今までに見せたことのない変化に驚きながらも、帰りの車の中でそっと充の手に自分の手を重ねる翔子。彼の寂しさがよくわかるのだと思います。
別れたとはいえ、夫婦の絆を感じる良いシーンでした。

 

その後月日は流れ、充は車に乗っていた時、道路で交通整理をしていた青柳に偶然会いました。今もなおひたすら謝る青柳に、「自分もあれから少し冷静になって考えられるようなった。もしかしたら娘が万引きしたかもしれないとも思うようになった。そっちは何度も謝ってくれたが、自分は一度も謝ってない、今は無理だが時間が必要なんだ」言い、「疲れたな~」と言います。それが本音でしょうね。自分でも花音が亡くなり、娘ときちんと向き合えてなかったと感じられるようになったのだと思います。その虚しさや自分に対する怒りを誰かにぶつけていたのかもしれません。ここで店長に会えて、前より穏やかに話をできた事で、お互いに前を向けたらいいな~と感じるグッとくるシーンでした。

もう一つグッときたシーンがあります。青柳が道路の交通整理の仕事の途中に弁当を食べていると「スーパーあおやぎの店長さんですよね?]と声をかけてきた男性がいたのです。
青柳は今の自分を誰にも知られたくないように曖昧な返事をしたのですが、男性はお店がなくなってとても残念でショックだった。自分も亡くなった母親も、店の焼き鳥弁当が大好きだったと言い、「いつか弁当屋でも開いて焼き鳥弁当、また食べさせてくださいよ。お疲れ様でした。ありがとうございました」と言い立ち去って行きます。

その言葉に涙を流しながら、彼の言葉を噛みしめるように、また彼に頭を下げるようにしてお弁当を食べるシーン、あれは泣けました~!

青柳はさほど父親から引き継いだこのスーパーに愛着がなかったように思います。
この事件以来、従業員もお客さんも、どんどん自分から、この店から離れて行きました。それでも、こうして残念だ、ありがとうございましたって声をかけてくれた常連客がいた事は、きっと青柳の今後の人生のささやかな希望になっていくような気がして、見ていて嬉しかったです。
個人的にはこのシーンが、一番感動しました。

後半はこんなシーンが多く、ハンカチ必要かもしれません(笑)

そんなある日、学校の教師が家を訪ねてきました。美術室に花音が描いた絵が残されていたようで届けてくれたのです。以前花音が亡くなった時、いじめでもあって盗みを強要されてたんじゃないかとの疑いで、学校にも乗り込んで来たことのある充を知ってるだけに女教師はビクビクでしたが、充はその絵を受け取りしっかり胸に抱えると、深々とお辞儀をしました。
そして届けられた絵の中の1枚を見て、びっくりするのです。
それは以前自分が描いた絵。空飛ぶイルカのように見える、そんな雲が出た日の風景にそっくりでした。
自分と同じように、あの雲を見ていたのか~と思ったのか、娘と偶然にも描きたい風景が同じだった事が嬉しかったのか、涙する充。
何とも切ない、それでもどこか温かい気持ちになれるラストシーンでした。

 

充がもう少し早く今のような穏やかで人の気持ちを考えられたり、謝る事もできる人間であったならば。。そう思います。スケッチブック片手に、一緒に娘と写生でもできたらどんなに良かったでしょうね。穏やかな顔つきになった彼を見て、そう思いました。でもだからこそ、これから彼は深い悲しみと後悔を抱えて生きていく事でしょう。それでもその事をしっかり受け止めて、この事で得た事を無駄にせず、しっかりと生きていって欲しいです。

娘の父親  添田充(古田新太)    
 中学生の娘 添田花音(伊藤蒼)
スーパーの店長青柳直人(松坂桃李

スーパーの従業員 日下部麻子(寺島しのぶ) 
充の別れた妻で花音の母翔子(田畑智子
監督 吉田恵輔
脚本 吉田恵輔

 

古田新太さん大熱演でした。興味のある方、ぜひごらんくださいね。